音楽で逢いましょう―忘れられぬ人、街、味への讃歌
[著者]
山本 益博
[出版社]
株式会社音楽之友社
[出版年]
2002年4月30日
[ノートor原著情報]
[コメント]
食の世界旅と音楽に関するエッセイ。雑誌「音楽の友」の連載されている(されていた?)エッセイを集めたもの。趣味で借りた本だが、案外色々と参考になる話が載ってた。
1.(p.87)(ある天才的なフランス料理のコックのジョエル・ロブションという人に対して、著者が行った問答)
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そのロブションに、かつて「優れた料理人とは?」という質問をぶつけたことがある。
「頭で考えたことを手ですべからく表現できる人、頭が良くても手が不器用、手が器用に動いても頭が良くない人は良い料理人とはいえない」
それでは「優れたシェフとは?」
「自分の考えていることを他人を使って表現できる人だろう」
という答えが返ってきた。
そしていつだったか彼の完璧主義について尋ねたことがあった。
「料理に完璧というのはあり得ないんだが、いつでもそれを目指そう、近づこうとするのが料理人の良心なんじゃないか。仕事で何かを変えるというのは、内容を改善し、質を上げるためなのだ。そのために、毎日の仕事の再点検を怠ってはならない。いつか完璧という料理を生み出したかったらね」
それでは自分のつくる料理に満足したことがない?
「そう。二十代から“完璧”という概念に取り付かれて仕事をしてきた。四十代になって、頭も手も思う存分に動いて、いよいよ完璧な料理が作れるかなと思った瞬間、“完璧”はどんどん遠のいていってしまったよ」
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2.p.104(イタリア・ミラノのこの道30年のエスプレッソ名人とのやり取り。初めて飲んだときに比べ2回目の方は若干感動が薄かった。そのことを話したところ、名人が午後にもう一度来いというので行ったら、今度は非常にすばらしいものだった。このエピソードから、その名人について)
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私は、かれの仕事ぶりを見ながら、こんなことを思ったものだ。かれは、自分の仕事をけっして労働とは考えていない。たった一杯100円のエスプレッソをサーヴィスするその仕事に、誇りと情熱を持ち続けているのだと。
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3.pp.114-116(著者と著者の娘さんがモーツァルトのオペラ「魔笛」を見に行ったときのエピソード。娘さんには小さいときから魔笛のビデオを子供用ビデオとして見せていたとのこと。で、実際のオペラを見せると、娘さんは夜の女王のコロラトゥーラのアリアを口ずさんでいた。このことを受けて)
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「習うより慣れろ」と昔の人はよくぞ言ったものだ感心しきり・・・・
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暗誦や単なる語呂合わせの暗記には、なぜどうしての「理屈」はいらない。私たちは久しく暗誦、暗記を忘れてしまっているが、耳が覚える音楽というのもこれと同じで、繰り返しの慣れから親しみが沸いてくるのだ。はじめから、つまり慣れてもいないうちから、理屈をつけて解ろうとすると、音楽にも芝居にも近づけない。つまり、名曲、名作には繰り返しに耐えるだけの力があるということにほかならず、それに接近する手段は、夜の女王の首飾りの一件のように、正攻法でなくともなんでもよいのである。そして、優れた歌唱、演奏だったら言うことはない。そのきっかけを作るときだけは、やはり水先案内人が必要ではなかろうか。
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4.p.161(イチローに関する話から、職人というものについて)
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職人は、昨日も今日も明日も同じ仕事を繰り返す。しかし、繰り返し同じことをしているわけではない。
その世界に飛び込んだばかりの新米の小僧は、親方、先輩の圧倒的なスピードの手さばきによる仕事の質の高さと量の豊かさを目の当たりにし、そこで一日でも早く到達したいものだという思いで、夢中になって手を動かし身体を使いながら仕事を覚えてゆく。
繰り返しの中で手が馴れてゆくと、頭で手順を考える前に手が動くようになるから、同じ仕事をしているにもかかわらず、身体が疲れなくなってくる。例えば、ひとつのことを成し遂げるのに、1、2,3,4,5の手順を必要としていたのに、それが1,3,5で達成できるようになるのだ。身体が楽になると、今度は脳が手に6,7・・・・・・の仕事を探すように指令を出す。このとき、新米に向上心が芽生え、職人の志というのが始めて生まれるのである。
目指すは、仕事を簡潔に遂行するための理想のフォーム、「型」の完成である。この理想のフォームを長い修練の果てにつかむことができた職人を人々は「名人」と呼び、それを驚くべきスピードで手に入れてしまった職人を「天才」と言うのではなかろうか。
だから「型」は無駄がなく、美しい。
この職人、言いかえればプロフェッショナルは、なにも大工さんや板前さんに限らない。舞台上にもスタジアムの中にもいるのだ。
5.p.194(93歳という高齢ながら現役のすし職人さんの話で、明治生まれのその職人さんの言葉)
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あたしは、十二歳でこの世界に入ったン。そこでまず教えられたのが、挨拶と言葉遣いと掃除でね。これが、職人というより、人間の基本だぞってね。
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「無理に生きてるってわけじゃない。自然に生きているんだ。こうしてね、仕事しているのが何よりうれ嬉しいやね。
人間ですからね、朝起きてたまに気が乗らないときや、身体がいうこときかないってときもあるけど、100歳になってすし握ってみたいねェ。・・・
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